秘密の地図を描こう
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「何か、僕に隠していない?」
キラがいきなりこう問いかけの言葉を口にする。
「何のことだ?」
しかし、いつの間に腹芸ができるようにあったのか。評議会議員の経験も悪くなかった、と言うことなのか……とミゲルは思う。
「微妙に表情が険しいから」
だが、キラもさすがだ……と言うべきなのか。」
「お前、自分のことは鈍いのにな。どうして、周囲の空気には敏感なのか」
言葉とともにディアッカが手を伸ばして彼の髪をなでる。
まぁ、あんな環境じゃ仕方がないのかもしれないが……とディアッカが唇の動きだけで付け加えた。それだけで状況が想像できてしまうのは自分だけではないはずだ。
「今期の訓練生が腰抜け過ぎただけだ」
あれでは使い物にならない、とイザークは言う。
「金のために志願した、と言うのは納得できる。しかし、もてるからというのは何なのだ?」
ここはお遊戯の場ではない、と彼は壁を殴った。その瞬間、そばに積まれていた本が崩れ落ちる。
「イザーク……」
お前な、とディアッカが突っ込んだ。
「あぁ、すまない」
さすがにこれは予想外だったのか。慌てたような表情でイザークが謝ってくる。
「乱雑に積んだ僕も悪いから」
それにキラは慌てたようにこう言い返す。
「ついつい、適当に積んじゃうんだよね」
苦笑とともに彼は付け加える。
「そうなんだよな。まぁ、書類じゃないだけマシってところだろ」
これが書類であれば大変なことになっていた、とミゲルはため息混じりに口を開く。
「何を言っているんですか。そのたびに手伝わされる人間の身にもなってください」
即座にニコルが突っ込んできた。
「いいじゃないか。同僚なんだし」
そのくらいのフォローはしろよ、と言い返す。
「……仕事のことだけでしたらあきらめますけどね」
わざとらしいため息とともにニコルは言葉を綴る。
「それ以外のことまで巻き込まないでくださいね。あぁ、キラが関わっていることなら好きなだけ巻き込んでくれていいですけど」
にっこりと微笑みながら付け加えられたセリフに、ミゲルはあきらめたように「わかったよ」とうなずいた。
「……僕のことは……」
放っておいてもらっても、とキラが口にしようとする。
「いいんですよ。キラは大切な友人です。手助けをするのは当然のことだ、といつも言っていますよね?」
だが、それよりも先にニコルがこう言った。
「そうそう。むしろ、もっと甘えてくれていいんだけど」
こちらは本気でそう思っているから、ミゲルもためらうことなくうなずく。
「そこの二人だって同じように考えているんだし」
ただ、彼らの場合、任務でそばにいられない方が多い。だから、その分、自分達がやろうと思っているだけだ。そう続けた。
「何なら、添い寝もしてやるぞ」
こういった瞬間、何故かディアッカに張り倒される。
「何するんだよ」
「お前なんかに、キラはやらん!」
だから、いったい何故、そんな考えになるのか。
「……全く……おっさんといいアスランといい……」
だが、ディアッカにはそう言うなりの理由があるようだ。
「大丈夫ですよ、ディアッカ。キラの希望を無視して何かしようとしたら、しっかりと制裁をさせてもらいますから」
笑みを深めるとニコルはそう言う。
「冗談だって……」
半分以上、本気だったことは言わないでおいた方がいいか。心の中でそう呟きながらミゲルはへらりと笑った。
「ともかく、だ」
話を元に戻すぞ、とイザークがにらみつけてくる。
「明日から、連中は絞るぞ。俺もディアッカも、時間があるわけではないからな」
三日で性根をたたき直してやる、と彼は言った。
「それは願ってもないけどな」
「使い物にならないようにしないでくださいね」
後のフォローが大変だから、と言外に告げる。
「そのあたりは俺が見ているし……だから、大丈夫だろう」
キラとお茶というご褒美も舞っているしな、とディアッカが笑う。
「それ、ご褒美じゃないじゃん」
ため息混じりにキラが口を開く。
「ご褒美なんだよ」
そんな会話を聞きながら、どうやら気づかれずにすんだらしい、と胸をなで下ろすミゲルだった。